役員報酬

役員報酬はいくらが最適か。96通り計算して分かった決め方

役員報酬を月5万円から100万円まで1万円刻みで全パターン計算しました。手取りが最大になる金額と、社会保険の等級が原因で手取りがのこぎり状に動く理由、そして最適額が所得によってどう変わるかを実際の数字で示します。

役員報酬をいくらにするかは、法人化したあとで最初に決める必要があり、そして年に一度しか変えられません

この金額ひとつで、税と社会保険を合わせた年間の負担は数十万円単位で動きます。それにもかかわらず、多くのシミュレーターは「役員報酬は年600万円と仮定」のように1点を決め打ちして比較しています。

当サイトのシミュレーターは、月5万円から100万円まで1万円刻みで96通りすべてを計算しています。その結果から分かったことを、実際の数字で示します。

役員報酬を動かすと、何が動くのか

法人化すると、事業の利益はいったん法人のものになります。そこからあなたが受け取るのが役員報酬です。この金額を上げ下げすると、4つのものが同時に動きます。

役員報酬を上げる役員報酬を下げる
社会保険料が増える(労使双方)社会保険料が減る
個人の所得税・住民税が増える個人の所得税・住民税が減る
法人の利益が減り、法人税が減る法人の利益が増え、法人税が増える
手元に自由に使えるお金が増える法人に貯まり、引き出すのに課税される

上げても下げても何かが増えます。だからどこかに最適点があります。

ここで見落とされやすいのが4行目です。役員報酬を極端に低くすれば税と社会保険の合計は確かに減りますが、そのぶん利益は法人に残ります。法人のお金を個人が使うには、配当か役員退職金という形で引き出す必要があり、そこで改めて課税されます。

当サイトはこの引き出しコストを既定で20%として控除しています。この控除を入れずに「法人に残った額」を額面のまま手取りに数えると、計算上は役員報酬を限界まで下げるのが最適という結論になりますが、それは現実の手取りではありません。

96通り計算するとこうなる

事業所得1,000万円(売上1,200万円・経費200万円)のケースです。

売上1,200万円・経費200万円(事業所得1,000万円)の場合

役員報酬手取り合計役員個人の手取り法人に残る額社会保険料(労使計)
月10万円632.7万円102.8万円529.9万円33.4万円
月20万円643.0万円196.3万円446.7万円68.1万円
月30万円651.6万円289.1万円362.4万円102.2万円
月40万円655.9万円378.8万円277.2万円139.6万円
月50万円661.1万円468.6万円192.5万円170.3万円
月54万円 ←最適663.9万円504.8万円159.1万円180.5万円
月60万円655.2万円547.8万円107.4万円200.9万円
月70万円648.5万円625.4万円23.2万円228.6万円
月80万円618.6万円704.8万円-86.1万円238.3万円
月90万円572.8万円784.4万円-211.6万円249.2万円
月100万円522.5万円860.2万円-337.6万円261.3万円

個人事業主のままの手取りは 657.1万円。最適な役員報酬は月54万円で、そのときの手取り合計は 663.9万円。

※ 経費200万円・東京23区・40歳未満・独身・青色申告(e-Tax)・インボイス登録済み・合同会社/2026年(令和8年)分基準 ※ 法人に残る額は、退職金・配当で引き出す際のコスト20%を控除した後の金額

読み取れることが3つあります。

最適は月54万円で、そのときの手取り合計は663.9万円。個人事業主のまま(657.1万円)をわずかに上回ります。

月80万円を超えると法人が赤字になります。 「法人に残る額」がマイナスに転じているのがそれです。役員報酬と法人負担の社会保険料が利益を食い尽くし、それでも法人住民税の均等割7万円は発生します。

外し方によって損は大きい。 よく置かれる仮定である月50万円なら661.1万円で、最適との差は2.8万円にとどまります。しかし月100万円にすると522.5万円まで落ち、最適から141万円も離れます。上振れ方向に外すほうが痛いというのが実務上の教訓です。

なぜ月54万円なのか

きりの悪い数字に見えますが、理由があります。社会保険の等級です。

健康保険と厚生年金の保険料は、報酬額そのものではなく「標準報酬月額」という等級表に当てはめて計算されます。報酬が1円上がるたびに保険料が上がるのではなく、等級をまたいだ瞬間に段差ができます

該当する部分を抜き出すとこうなります。

報酬月額標準報酬月額健保等級
51万5,000円以上 54万5,000円未満53万円31
54万5,000円以上 57万5,000円未満56万円32
57万5,000円以上 60万5,000円未満59万円33

月54万円は、32等級(標準報酬月額56万円)に収まるぎりぎり手前です。もう1万円上げて月55万円にすると、54万5,000円の境目を超えて同じ32等級のままですが、月58万円まで上げると33等級に入り、標準報酬月額が59万円になります。

差は3万円。これに東京都の料率(健康保険9.85%+子ども・子育て支援金0.23%+厚生年金18.3%=28.38%)を掛けて12か月分にすると、労使合わせて年間およそ10万円が一段で増えます。

手取りは「のこぎり状」に動く

この段差があるため、報酬を1万円ずつ上げていったときの手取りは、なめらかな曲線になりません。等級内では少しずつ増え、等級をまたぐ瞬間にガクンと落ちる、のこぎりのような形になります。

つまり最適額は「だいたいこのあたり」では見つかりません。等級の境目の直前をピンポイントで当てる必要があり、それには1万円刻みで全パターンを計算するしかありません。10万円刻みで比較すれば、ほぼ確実に山の頂点を外します。

標準報酬月額が等級で区切られているのは、事業所ごとの給与計算の事務負担を抑えるためです。制度の目的は事務の簡素化であって、報酬額に比例した負担を求めることではありません。結果として、境目の前後で負担が不連続になります。

なお厚生年金の標準報酬月額の上限は現在65万円ですが、令和9年9月から段階的に75万円へ引き上げられることが決まっています。高めの役員報酬を設定している場合、来年以降は負担が増えます。

所得が変われば、最適額も変わる

事業所得を変えて計算すると、最適な役員報酬はこう動きます。

事業所得個人のまま法人化(最適報酬)最適な役員報酬実質差額(年)判定
400万円303.1万円275.3万円月28万円−47.8万円個人のまま有利
600万円427.3万円410.8万円月42万円−36.5万円個人のまま有利
800万円540.7万円538.0万円月54万円−22.7万円個人のまま有利
1,000万円657.1万円663.9万円月54万円−13.2万円ほぼ互角
1,200万円774.2万円789.0万円月54万円−5.2万円ほぼ互角
1,500万円928.2万円973.4万円月54万円+25.3万円法人化が有利
1,800万円1082.1万円1150.8万円月90万円+48.7万円法人化が有利
2,100万円1232.0万円1334.4万円月95万円+82.3万円法人化が有利
2,500万円1395.0万円1552.6万円月100万円+137.6万円法人化が有利
3,000万円1599.6万円1818.3万円月100万円+198.7万円法人化が有利

※ 経費200万円・東京23区・40歳未満・独身・青色申告(e-Tax)・インボイス登録済み・合同会社/2026年(令和8年)分基準 ※ 実質差額は税理士報酬の差(年20万円)と法人住民税の均等割を差し引いた後の金額

所得800万円から1,500万円までは、最適額が月54万円で止まっています。これは偶然ではなく、その帯では等級32の上限(標準報酬月額56万円)に張り付くのが最も効率がよいということです。

所得1,800万円を超えると月90万円台へ跳びます。ここでは社会保険料の増加より、法人に利益を残して引き出すコストのほうが重くなるため、報酬を上げて個人で受け取るほうが有利になります。

損益分岐点の詳しい話は法人化の目安は「所得800万円」?その数字が当てにならない3つの理由で扱っています。

決めるときの実務上の制約

計算上の最適額が分かっても、そのとおりに運用できるとは限りません。制約が2つあります。

年に一度しか変えられない

役員報酬を法人の経費(損金)にするには、定期同額給与である必要があります。毎月同じ額を支給するという意味です。

金額を変更できるのは、原則として事業年度開始の日から3か月を経過する日までです。それ以降に増額すると、増額した部分は損金に算入されず、法人税の対象になったうえで個人の所得税もかかります。

つまり期首に決めた金額で1年間走ることになります。「儲かったから年度末に上げる」はできません。

生活費を下回る額には設定できない

計算上は月30万円が最適でも、生活費が月40万円必要なら成立しません。法人に貯まったお金を個人が自由に使うことはできず、引き出すには配当か退職金という形をとって課税されます。

役員報酬は「生活に必要な額」を下限として、その上で最適値に寄せるというのが現実的な決め方です。

まとめ

  • 役員報酬を上げると社会保険料と所得税が増え、下げると法人税と引き出しコストが増える。どこかに最適点がある
  • 事業所得1,000万円のケースでは月54万円が最適。上振れ方向に外すと損が大きく、月100万円では141万円落ちる
  • 社会保険は等級制のため、手取りは等級の境目でガクンと落ちる「のこぎり状」に動く。1万円刻みで計算しないと頂点は見つからない
  • 所得800万〜1,500万円の帯では最適額が月54万円で止まる。1,800万円を超えると月90万円台へ跳ぶ
  • 変更できるのは事業年度開始から3か月以内。実質的に年1回しか決められない

数字は条件によって変わります。自分の売上と経費を入れて、96通りのどこに山があるか確かめてください。

よくある質問

役員報酬をゼロにすれば社会保険料はかかりませんか?

報酬がゼロであれば社会保険の被保険者にはならないため、保険料は発生しません。ただし国民健康保険と国民年金に自分で加入することになり、そちらの負担が生じます。また役員報酬がゼロだと生活費を法人から引き出せず、配当か貸付という形をとることになるため、実務上は限られたケースでしか選ばれません。

一度決めた役員報酬は途中で変えられますか?

原則として、事業年度開始の日から3か月を経過する日までであれば変更できます。それ以降に増額すると、増額分が損金に算入されず法人税の対象になります。業績の著しい悪化など特別な事情がある場合の減額は認められることがありますが、要件は厳格です。実質的に年1回しか決められないと考えてください。

賞与を出せば社会保険料を抑えられると聞きました。

賞与にも社会保険料はかかります。ただし健康保険は年度累計573万円、厚生年金は1回あたり150万円という上限があるため、極端に高額な賞与では上限が効きます。一方で役員賞与を損金に算入するには事前確定届出給与の届出が必要で、金額も日付も1円・1日のずれが許されません。本記事のシミュレーションは賞与なしを前提としています。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。