社会保険
配偶者がいると法人化の分岐点は286万円下がる。扶養に入れる仕組み
個人事業主の配偶者は国民年金と国民健康保険を自分で負担しますが、法人化して社会保険の扶養に入れると負担がゼロになります。損益分岐点が1,252万円から966万円へ下がる理由と、扶養に入るための条件を数字で示します。
法人化の損得を左右する条件はいくつもありますが、配偶者の有無ほど大きく効くものはありません。
当サイトのシミュレーターで計算すると、損益分岐となる事業所得は独身で1,252万円、配偶者がいる場合は966万円です。286万円下がります。
理由は税ではなく、社会保険にあります。
個人事業主だと、配偶者も自分で払う
個人事業主は国民年金の第1号被保険者です。そして配偶者も第1号被保険者になります。
第1号被保険者の保険料は、所得に関係なく定額です。令和8年度は月17,920円。1人あたり年間215,040円です。
夫婦2人なら、これが2人分かかります。
| 国民年金保険料(年額) | |
|---|---|
| 本人のみ | 215,040円 |
| 本人+配偶者 | 430,080円 |
国民健康保険も世帯単位で計算され、加入人数に応じた「均等割」がかかります。ただし所得割の部分には賦課限度額があるため、所得が一定以上の世帯では増える額は均等割の分だけに収まります。
事業所得1,000万円のケースで計算すると、配偶者が増えることによる社会保険料の増加はこうなります。
| 項目 | 独身 | 配偶者あり | 差 |
|---|---|---|---|
| 国民年金保険料 | 21.5万円 | 43.0万円 | +21.5万円 |
| 国民健康保険料 | 95.6万円 | 95.8万円 | +0.2万円 |
| 合計 | 117.1万円 | 138.8万円 | +21.7万円 |
※ 東京23区・40歳未満・青色申告(e-Tax)・事業所得1,000万円/2026年(令和8年)分基準
国民健康保険の増加が0.2万円にとどまっているのは、この所得帯では医療分と後期高齢者支援金分がすでに賦課限度額に達していて、所得割がそれ以上増えないためです。増えたのは子ども・子育て支援金分の均等割だけです。
負担増の中身は、ほぼ配偶者の国民年金だと分かります。
法人化すると、配偶者の負担がゼロになる
法人化して役員報酬を受け取ると、あなたは厚生年金の第2号被保険者になります。このとき、扶養している配偶者は第3号被保険者になります。
第3号被保険者は、自分で保険料を納める必要がありません。厚生年金制度全体で負担する仕組みになっているためです。
健康保険も同じです。協会けんぽの被扶養者になれば、配偶者の分の保険料はかかりません。あなたの保険料も増えません。健康保険料は標準報酬月額だけで決まり、扶養する家族が何人いても変わらないからです。
つまり法人化によって、次のことが起きます。
- 配偶者の国民年金保険料(年215,040円)→ ゼロ
- 配偶者の国民健康保険料 → ゼロ
- あなたの社会保険料の増加 → なし
将来受け取る年金が減るわけでもありません。第3号被保険者の期間は保険料を納めた期間として扱われ、老齢基礎年金の額に反映されます。負担だけが消えます。
実際にいくら変わるのか
事業所得1,000万円のケースで、独身と配偶者ありを比べます。
| 独身 | 配偶者あり | 差 | |
|---|---|---|---|
| 個人事業主のままの手取り | 657.1万円 | 651.0万円 | −6.1万円 |
| 法人化(最適報酬)の手取り | 663.9万円 | 671.0万円 | +7.2万円 |
| 法人化による差額 | +6.8万円 | +20.0万円 | +13.2万円 |
※ 東京23区・40歳未満・青色申告(e-Tax)・インボイス登録済み・合同会社/2026年(令和8年)分基準
配偶者がいると、個人のままは手取りが減り、法人化すると手取りが増えます。方向が逆です。
個人のままで6.1万円しか減っていないのは、社会保険料が21.7万円増える一方で、その全額が社会保険料控除になり所得税・住民税が下がるためです。負担増の3分の2程度は税の減少で相殺されます。
法人化側で7.2万円増えているのは、配偶者控除(所得税38万円・住民税33万円)が効くためです。社会保険料は増えないので、控除の分だけそのまま手取りが増えます。
結果として、配偶者がいるだけで法人化の年間差額が13.2万円改善します。
分岐点は1,252万円から966万円へ
この13.2万円が、損益分岐点をどれだけ動かすか。条件別に計算するとこうなります。
| 条件 | 損益分岐となる事業所得 |
|---|---|
| 基本(独身・インボイス登録済み) | 1,252万円 |
| 配偶者あり(無収入) | 966万円 |
| 配偶者あり+扶養1人 | 1,052万円 |
| 40〜64歳(介護保険あり) | 1,229万円 |
| 大阪市 | 1,270万円 |
| 名古屋市 | 1,255万円 |
| 白色申告 | 768万円 |
※ 経費200万円・東京23区・40歳未満・独身・青色申告(e-Tax)・インボイス登録済み・合同会社/2026年(令和8年)分基準 ※ 表示した条件以外は基本条件と同じ。実質差額がプラスに転じる事業所得 ※ いずれも3年目以降の定常状態。設立1〜2期の消費税免税(インボイス未登録の場合のみ)は含まない
286万円の差です。年間13.2万円の改善が分岐点を大きく動かすのは、分岐点付近では法人化の差額を表す線がなだらかで、少しの上下で交点が大きくずれるためです。
扶養1人を足すと、むしろ上がる
配偶者あり+扶養1人が1,052万円と、配偶者のみ(966万円)より高くなっています。直感に反しますが理由があります。
子どもは20歳未満であれば、そもそも国民年金の保険料がかかりません。 法人化で消えるのは国民健康保険の均等割だけで、金額は小さい。
一方で個人事業主側では扶養控除(所得税38万円・住民税33万円)が効いて税負担が下がります。法人化しても同じ控除は使えますが、個人側が改善する分だけ法人化の相対的な優位が薄れるという構造です。
扶養家族の中で、法人化の効果が大きいのは配偶者だけだと言えます。
扶養に入れるための条件
自動的に入れるわけではありません。主な条件は次のとおりです。
国民年金の第3号被保険者
- 第2号被保険者(あなた)に扶養されている配偶者であること
- 20歳以上60歳未満であること
- 原則として年収130万円未満であること
60歳以上の配偶者は第3号被保険者になれません。ただし60歳を過ぎれば国民年金の保険料納付義務自体がなくなるため、そもそも負担は生じません。
健康保険の被扶養者
- 年収130万円未満(60歳以上または障害厚生年金の受給要件に該当する場合は180万円未満)
- かつ、同居している場合は被保険者の年収の2分の1未満
配偶者にパート収入がある場合、この130万円が境目です。超えると配偶者自身が社会保険に加入することになり、本記事で示した効果は得られません。
手続き
配偶者の勤務先を通じて行うのが通常ですが、あなたが法人の代表であれば、自分の会社から年金事務所へ届出をします。「健康保険被扶養者(異動)届」と「国民年金第3号被保険者関係届」を提出します。
注意点
配偶者が事業を手伝っている場合は、別の選択肢もあります。 配偶者を法人の従業員や役員にして給与を払えば、所得を分散できて世帯全体の税負担が下がる可能性があります。ただし給与額によっては配偶者自身が社会保険の被保険者になり、扶養から外れます。どちらが有利かは金額次第です。
青色事業専従者給与との比較も必要です。 個人事業主のままでも、配偶者に専従者給与を払えば経費にできます。この場合、配偶者は扶養に入れず、配偶者控除も使えません。本記事の試算は専従者給与を使っていない前提です。
本記事は配偶者が無収入であることを前提としています。 収入がある場合、130万円の壁の手前かどうかで結論が変わります。
まとめ
- 個人事業主だと配偶者も第1号被保険者になり、国民年金を年215,040円自分で払う
- 法人化して扶養に入れると、配偶者の国民年金・国民健康保険がゼロになる。あなたの保険料も増えない
- 将来の年金は減らない。第3号被保険者の期間は納付期間として扱われる
- 事業所得1,000万円のケースで、法人化の年間差額が13.2万円改善する
- 損益分岐点は1,252万円から966万円へ、286万円下がる
- 子どもの扶養では同じ効果は出ない。20歳未満は国民年金の保険料がもともとかからないため
- 配偶者の年収が130万円を超えると扶養に入れず、この効果は消える
役員報酬をいくらにするかでも結果は変わります。役員報酬はいくらが最適か。96通り計算して分かった決め方もあわせて確認してください。
配偶者ありの条件を入れて、自分の所得ではどうなるか試算してみてください。
よくある質問
配偶者が扶養に入ると、将来の年金は減りますか?
減りません。第3号被保険者の期間は、保険料を納めた期間として扱われ、老齢基礎年金の受給額に反映されます。第1号被保険者として自分で保険料を納めていた場合と、基礎年金の額は変わりません。負担だけがなくなる形です。
配偶者に少し収入がある場合はどうなりますか?
年収130万円未満で、かつ被保険者(あなた)の年収の2分の1未満であれば、原則として扶養に入れます。パート収入がこの範囲に収まっているかを確認してください。130万円を超えると配偶者自身が社会保険に加入することになり、本記事の効果は得られません。
子どもも扶養に入れられますか?
入れられます。ただし子どもは20歳未満であれば国民年金の保険料がもともとかからないため、法人化による削減効果は国民健康保険料の分だけです。国民健康保険には均等割という人数割の負担があるので、その分は減ります。配偶者ほど大きな差にはなりません。
出典
本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。