法人化の判断

マイクロ法人は意味ないのか。社会保険料82万円の差と、成立しない条件

法人と個人事業を併用して社会保険料を抑えるマイクロ法人。役員報酬を月4.5万円にすれば社会保険料は年26.3万円で済み、個人事業のみの場合と82万円の差が出ます。それでも意味がないと言われる理由を数字で整理します。

「マイクロ法人」を検索すると、「社会保険料を劇的に減らせる」という記事と「意味がない」という記事の両方が出てきます。

どちらも部分的に正しい、というのが実態です。削減額は本当に大きく、そして成立しない条件も本当に多い。

数字で整理します。

マイクロ法人とは何か

一般に言われるマイクロ法人は、次の構成を指します。

  1. 事業の一部を切り出して法人を設立する
  2. その法人から受け取る役員報酬を最低水準に設定する
  3. 残りの事業は個人事業として続ける

狙いは社会保険料です。

社会保険料は、法人から受け取る役員報酬だけで決まります。 個人事業でいくら稼いでいても、社会保険料には影響しません。国民健康保険・国民年金から協会けんぽ・厚生年金へ切り替わり、その保険料は役員報酬の水準で決まります。

つまり役員報酬を月数万円にすれば、社会保険料を最低水準に固定したまま、個人事業の所得はいくらでも増やせる、という構造です。

削減額は実際に大きい

役員報酬を最低水準にしたときの社会保険料です。

役員報酬健保の標準報酬月額厚年の標準報酬月額本人負担(年)労使合計(年)
月4.5万円5.8万円8.8万円13.2万円26.3万円
月6万円5.8万円8.8万円13.2万円26.3万円
月8.8万円8.8万円8.8万円15.0万円30.0万円
月10万円9.8万円9.8万円16.7万円33.4万円
月15万円15.0万円15.0万円25.5万円51.1万円

※ 東京支部・40歳未満/令和8年3月分以降の料率

健康保険の標準報酬月額は5.8万円が下限、厚生年金は8.8万円が下限です。月6万円までは保険料が変わらないため、月4.5万円でも月6万円でも労使合計26.3万円です。

一方、個人事業主のままだとこうなります。

事業所得国民健康保険国民年金合計
300万円33.9万円21.5万円55.4万円
500万円55.1万円21.5万円76.6万円
700万円76.2万円21.5万円97.7万円
800万円86.8万円21.5万円108.3万円
1,000万円95.8万円21.5万円117.3万円

※ 東京23区・40歳未満・独身/2026年(令和8年)分基準

事業所得800万円で比べると、108.3万円 − 26.3万円 = 82万円。これがマイクロ法人が注目される理由です。年82万円は無視できる金額ではありません。

それでも「意味ない」と言われる理由

1. 固定費が先に引かれる

法人を持てば、毎年27万円前後の固定費がかかります。均等割7万円と、法人分の税理士報酬です。個人事業と法人の両方を申告するため、税理士報酬はむしろ通常の法人化より高くなることもあります。

82万円削減できても、手元に残るのは50万円台です。所得が低ければ、この固定費だけで削減効果が消えます。

固定費の詳細は法人化のデメリット7つを金額でで扱っています。

2. 将来の年金が減る

厚生年金の受給額は、加入期間中の標準報酬月額の平均で決まります。標準報酬月額8.8万円で加入し続ければ、報酬比例部分はごくわずかにしかなりません。

社会保険料が安く済むのは、将来受け取る額も小さいからです。支払いを減らしているのであって、得をしているわけではないという側面があります。

3. 事業実態の分離が必要

これが最大の論点です。

法人と個人事業を併用する以上、それぞれが独立した事業として説明できる必要があります。取引先・契約・請求・入金経路・業務内容が分かれていて、それぞれに合理的な事業目的があること。

同じ取引先への同じ業務を、都合よく法人と個人に振り分けるような形は、実態がないと判断されるおそれがあります。そうなれば期待した効果は得られません。

「形だけ法人を作る」では成立しません。 どこまでが認められるかは個別事情によるため、必ず税理士に確認してください。

4. 手間が2倍になる

法人の決算申告と、個人の確定申告。帳簿も口座も2つずつ。社会保険の手続きも発生します。

年50万円台の削減のために、この手間と、実態の説明責任を負い続けられるかどうか。そこが「意味ない」と言われる分かれ目です。

5. 所得が低いと成立しない

事業所得300万円のケースでは、個人事業主の社会保険料は55.4万円。マイクロ法人にしても26.3万円で、差は29.1万円です。固定費27万円でほぼ消えます。

削減効果が固定費を明確に上回るのは、事業所得がおおむね600万円を超えてからです。

通常の法人化と何が違うのか

事業を丸ごと法人化する場合と比べると、狙っているものが違います。

通常の法人化マイクロ法人(併用)
狙い所得税と法人税の税率差社会保険料の圧縮
役員報酬手取りが最大になる額(月54万円など)最低水準(月4.5万円など)
個人事業廃業する続ける
効果が出る所得の目安おおむね1,250万円以上おおむね600万円以上
事業実態の説明不要必要

通常の法人化は役員報酬を最適化して税負担を下げる手法で、当サイトのシミュレーターが計算しているのはこちらです。最適な役員報酬は月54万円前後になることが多く、マイクロ法人の月4.5万円とは方向が正反対です。

なお当サイトのシミュレーターは併用モデルに対応していません。本記事の数字は社会保険料の部分だけを取り出して比較したものです。

役員報酬の最適化については役員報酬はいくらが最適か。96通り計算して分かった決め方をご覧ください。

判断の順番

  1. 事業を2つに分けられるか。 分けられないなら検討の余地はありません
  2. 事業所得が600万円を超えているか。 下回るなら固定費で消えます
  3. 将来の年金が減ることを受け入れられるか
  4. 申告と帳簿が2つになる手間を許容できるか
  5. 1〜4がすべて満たされるなら、税理士に実態の分離が成立するか確認する

この順番で1つでも引っかかれば、そこで検討は終わりです。

まとめ

  • 社会保険料は法人からの役員報酬だけで決まる。個人事業の所得は影響しない
  • 役員報酬を月4.5万円にすれば社会保険料は労使合計で年26.3万円。事業所得800万円の個人事業主(108.3万円)と82万円の差
  • ただし法人の固定費27万円が先に引かれ、手元に残るのは50万円台
  • 厚生年金の受給額も同時に減る。支払いを減らしているだけで、得をしているわけではない
  • 事業実態の分離が必要。形だけの法人では成立しない
  • 事業所得600万円を下回ると固定費で効果が消える
  • 通常の法人化とは狙いも最適な役員報酬も正反対

本記事は制度の説明であり、特定の手法を推奨するものではありません。実行を検討する場合は、必ず税理士に個別の事情を確認してください。

よくある質問

当サイトのシミュレーターでマイクロ法人の試算はできますか?

できません。本サイトは「個人事業のまま」と「事業を丸ごと法人化する」の2つを比較するもので、法人と個人事業を併用するモデルには対応していません。本記事の数字は社会保険料の部分だけを取り出して比較したものです。併用を検討する場合は、事業実態の分離が成立するかを含めて税理士に相談してください。

厚生年金が減ると将来いくら損しますか?

厚生年金の受給額は加入期間中の標準報酬月額の平均で決まります。標準報酬月額8.8万円で長期間加入すると、報酬比例部分はごくわずかになります。老齢基礎年金に相当する水準は確保できますが、上乗せはほぼ期待できません。何年その状態を続けるかで影響が変わるため、一律にいくらとは言えません。

事業実態の分離とは具体的に何をすればよいのですか?

法人と個人事業がそれぞれ独立した事業として説明できる状態にすることです。取引先・契約・請求・入金経路・業務内容が分かれていること、それぞれに合理的な事業目的があることなどが問われます。同じ取引先への同じ業務を都合よく振り分けるような形は、実態がないと判断されるおそれがあります。判断は個別事情によるため、必ず専門家に確認してください。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。