法人化の判断
法人化のデメリット7つを金額で。年27万円の固定費から始まる
法人化のデメリットは「手続きが面倒」といった感覚的な話ではなく、金額で示せます。毎年の固定費27万円、社会保険の強制加入、赤字でも消えない均等割まで、実際の数字で7つ整理しました。
法人化のメリットは、どのサイトにも同じことが書かれています。節税、信用、決算期の自由。
一方でデメリットは「手続きが煩雑」「社会保険の負担が増える」といった感覚的な書き方で終わっていることが多く、結局いくら損するのかが分かりません。
金額で整理します。
1. 毎年27万円の固定費が発生する
法人化すると、利益が出ようが出まいが毎年出ていくお金があります。
| 固定費 | 金額の目安 |
|---|---|
| 法人住民税の均等割 | 7万円 |
| 税理士報酬の増加分 | 20万円前後 |
| 合計 | 27万円前後 |
均等割は東京23区で資本金1,000万円以下・従業者50人以下の場合が年7万円。所得がゼロでも赤字でも課税されます。 資本金等の額が1,000万円を超えると18万円に跳ね上がります。
税理士報酬は、個人の確定申告と法人の決算申告では作業量が違うため、個人時代より年20万円程度は上乗せになるのが一般的です。法人は決算書と法人税申告書の作成が必要で、自力で完結させる人はごく少数です。
この27万円は、税と社会保険がどれだけ軽くなっても先に引かれます。法人化で年30万円軽くなっても、手元に残るのは3万円という計算です。
均等割の詳しい仕組みは法人住民税の均等割は赤字でも年7万円。誰がいくら払うのかで扱っています。
2. 社会保険に強制加入になる
法人は、社長ひとりの会社であっても社会保険(健康保険・厚生年金)への加入が義務です。「保険料が高いから入らない」という選択肢はありません。
保険料は役員報酬で決まります。東京都・40歳未満の場合、健康保険9.85%+子ども・子育て支援金0.23%+厚生年金18.3%で、合計28.38%。労使折半とはいえ、ひとり社長の会社では会社負担分も自分の事業の利益から出ています。
事業所得800万円のケースで比較します。
| 年間の社会保険料 | |
|---|---|
| 個人事業主(国民健康保険+国民年金) | 108.3万円 |
| 法人(役員報酬 月54万円) | 180.5万円 |
※ 東京23区/東京支部・40歳未満・独身/2026年(令和8年)分基準
72万円増えます。 これが法人化の最も大きな金銭的デメリットです。
ただし増えた分がまるごと損というわけではありません。厚生年金は国民年金より将来の受給額が増え、国民健康保険にはない傷病手当金・出産手当金の対象にもなります。単年の手取り差だけで判断しないでください。
3. 役員報酬は年に一度しか変えられない
役員報酬を法人の経費(損金)にするには、毎月同額を支給する定期同額給与である必要があります。
変更できるのは、原則として事業年度開始の日から3か月を経過する日まで。それ以降に増額すると、増額した部分は損金に算入されず、法人税の対象になったうえで個人の所得税もかかります。二重に課税される形です。
「今年は儲かったから年度末に多く受け取る」ができません。期首の時点で1年分を予測して決める必要があります。
売上の変動が大きい事業ほど、この制約は重く効きます。最適な役員報酬の決め方は役員報酬はいくらが最適か。96通り計算して分かった決め方で扱っています。
4. 法人のお金は自由に使えない
個人事業主なら、事業用口座のお金をそのまま生活費に回せます。法人は違います。
法人のお金は法人のものです。個人が使うには、役員報酬・配当・役員退職金のいずれかの形で引き出す必要があり、そこで改めて課税されます。
役員報酬を低く抑えて法人に利益を貯めれば、その年の税と社会保険は軽くなります。ただしその利益を将来使うときにコストがかかるため、額面どおりの手取りではありません。当サイトのシミュレーターは、この引き出しコストを既定で20%として控除しています。
「法人に○○万円残った」という数字を額面で受け取ると、法人化の効果を過大評価します。
5. 消費税の免税が受けられないことがある
「法人化すれば2年間は消費税が免除される」という説明をよく見かけますが、条件があります。
- インボイス発行事業者として登録している → 設立した法人も登録すれば、初年度から課税事業者
- 資本金1,000万円以上で設立した → 設立1期目から課税事業者
取引先の求めに応じてインボイス登録済みの人は今や多数派です。その場合、この「メリット」は最初から存在しません。
さらに、2割特例(納付税額を売上税額の2割にできる措置)は令和8年9月30日を含む課税期間で終了し、後継として新設された3割特例は個人事業者しか使えません。2割特例を使っている個人が法人化すると、令和9年・令和10年の軽減措置を失います。詳しくは2割特例は令和8年で終了。後継の3割特例は法人が使えないをご覧ください。
6. 赤字でも申告と納税がある
個人事業主なら、赤字の年は所得税も住民税所得割もかかりません。法人は違います。
- 法人住民税の均等割は赤字でも年7万円
- 赤字であっても決算申告は必要
均等割は法人税の計算上、損金にも算入できません。7万円の支出は7万円の負担そのものです。
事業を休んでも同じです。休眠の届出で免除される取扱いのある自治体もありますが、自動的に免除されるわけではありません。
7. 設立費用と、やめるときの費用がかかる
設立時に、合同会社で約10万円、株式会社で約25万円かかります。これは初年度の実質差額から差し引かれます。
見落とされやすいのがやめるときの費用です。法人を解散して個人事業に戻すには、解散登記・清算結了登記・清算確定申告が必要で、費用は十万円単位、期間も数か月かかります。設立より手間がかかります。
「とりあえず法人化してみて、合わなければ戻す」という発想は、費用面で成立しません。
会社形態ごとの費用は合同会社と株式会社、設立費用の差は約15万円で比較しています。
結局、いくらの所得なら見合うのか
デメリットを全部差し引いたうえで、法人化が有利に転じる所得を計算しました。
| 事業所得 | 個人のまま | 法人化(最適報酬) | 実質差額(年) | 判定 |
|---|---|---|---|---|
| 400万円 | 303.1万円 | 275.3万円 | −47.8万円 | 個人のまま有利 |
| 600万円 | 427.3万円 | 410.8万円 | −36.5万円 | 個人のまま有利 |
| 800万円 | 540.7万円 | 538.0万円 | −22.7万円 | 個人のまま有利 |
| 1,000万円 | 657.1万円 | 663.9万円 | −13.2万円 | ほぼ互角 |
| 1,200万円 | 774.2万円 | 789.0万円 | −5.2万円 | ほぼ互角 |
| 1,500万円 | 928.2万円 | 973.4万円 | +25.3万円 | 法人化が有利 |
| 1,800万円 | 1082.1万円 | 1150.8万円 | +48.7万円 | 法人化が有利 |
※ 経費200万円・東京23区・40歳未満・独身・青色申告(e-Tax)・インボイス登録済み・合同会社/2026年(令和8年)分基準 ※ 実質差額は税理士報酬の差(年20万円)と法人住民税の均等割を差し引いた後の金額
この条件では、分岐点は1,252万円あたりです。よく言われる800万円よりかなり高く出ます。差の大部分がここまで見てきた固定費と引き出しコストです。
ただし条件が変われば分岐点は動きます。配偶者が無収入なら966万円まで下がりますし、白色申告なら768万円です。詳しくは法人化の目安は「所得800万円」?その数字が当てにならない3つの理由で扱っています。
まとめ
| デメリット | 金額の目安 |
|---|---|
| 1. 毎年の固定費(均等割+税理士報酬) | 年27万円 |
| 2. 社会保険料の増加 | 所得800万円で年72万円 |
| 3. 役員報酬は年1回しか変えられない | — |
| 4. 法人のお金は引き出しにコストがかかる | 目安20% |
| 5. 消費税の免税を受けられない場合がある | 売上により年数十万円 |
| 6. 赤字でも均等割と決算申告 | 年7万円+税理士報酬 |
| 7. 設立費用と、やめるときの費用 | 設立10〜25万円/解散十万円単位 |
デメリットは消せません。それを上回るメリットが出る所得かどうかで判断してください。自分の売上と経費を入れて、実質差額がプラスかマイナスかを確かめるのが最短です。
よくある質問
デメリットを避けて法人化する方法はありますか?
固定費と社会保険の強制加入は、法人である以上避けられません。減らせるのは金額の一部だけです。資本金を1,000万円未満にすれば均等割は年7万円に抑えられますし、記帳を自分で行えば税理士報酬は下げられます。ただし決算申告まで自力でやる負担は小さくありません。デメリットは消せないので、それを上回るメリットが出る所得かどうかで判断してください。
法人化してから「やっぱり戻したい」と思ったらどうなりますか?
法人を解散・清算して個人事業に戻すことは可能ですが、解散登記・清算結了登記・清算確定申告が必要で、費用は十万円単位、期間も数か月かかります。設立より手間がかかると考えてください。だからこそ設立前に数字で確認する意味があります。
一番大きいデメリットはどれですか?
所得帯によって変わります。所得が1,000万円に届かない層では固定費27万円が最も重く、これだけで法人化が不利になります。所得が高い層では固定費の比重が下がり、社会保険料の増加と、法人に貯まった利益を引き出すコストのほうが効いてきます。
出典
本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。